準委任とは?どんな契約?請負契約や派遣との違いがよくわからない。
準委任とは、ITやコンサル業界を中心に広く使われている重要な契約形態です。しかしその内容は意外と誤解されやすく、契約の選び方を間違えるとトラブルの原因にもなります。
そこで今回の記事では
この記事でわかること
- 準委任とは?その契約の意味
- 他契約との違い
- メリット・デメリット
- 実務での活用法
などを、図表や具体例を使ってわかりやすく解説します。
契約書を結ぶ前のチェックポイントや注意点も網羅しているので、実務に携わる方にとってもきっと役立つ内容です。
1. 準委任契約とは?基本からわかりやすく解説
準委任とは、業務委託の一種ですが、その性質は非常に独特で、正しく理解しておかないと大きなトラブルにつながることもあります。
特に最近では、準委任契約が「成果物の完成を求めない契約」として広まっています。が、実は法改正の影響で「成果物を納品するタイプの準委任契約(成果完成型)」も存在するようになりました。
この章では、準委任契約の定義から、他の契約形態との違い、そして準委任契約が実際に使われている場面まで、基本をしっかり解説していきます。
参考記事:準委任契約2つの種類について
準委任とは? ①準委任契約の定義と目的
準委任とは、民法第656条に規定された契約で、「法律行為ではない事務作業を他人に委託する契約」です。
民法上の「委任契約」に準じる形で取り扱われます。
契約の目的は、「業務の遂行」であり、「成果物の完成」ではありません。
ただし、2020年の民法改正によって、準委任契約は以下の2つの類型に分けられるようになりました。
種類 | 報酬の発生条件 | 成果物の有無 | 完成義務 |
---|---|---|---|
履行割合型 | 作業量・工数・時間に応じて支払い | 原則なし | なし |
成果完成型 | 成果物の納品で支払い | あり(定義による) | なし(完成が報酬条件だが義務ではない) |
履行割合型は、業務にかかった時間や工数に対して報酬を支払う形態です。成果が出たかどうかに関係なく、遂行した事実そのものに価値がある業務に向いています。
一方、成果完成型は「成果物の提出をもって報酬が発生する」という形式ですが、請負契約とは異なり、“完成”そのものを義務づけるわけではありません。この微妙な違いが重要です。
つまり、準委任とは「仕事の完了」ではなく「仕事の遂行」に対して報酬を支払う契約。さらにその中で成果を軸にしたかどうかで2種類に分かれているということです。
準委任とは? ②準委任と委任・請負の違いとは
「準委任」と「委任」、「請負」は似ているようでまったく違います。
大きな違いは、扱う行為の性質と、報酬の支払い条件です。
まず、委任契約は「法律行為」(たとえば契約代理など)を他人に依頼する契約です。これに対し、準委任契約は「法律行為ではない事務や作業」を依頼する点で異なります。たとえば、営業代行の「契約締結」は委任契約ですが、単なる資料作成は準委任契約に該当します。
そして最も比較されやすいのが請負契約との違いです。請負契約は「仕事の完成」が目的です。成果物が完成しなければ、報酬は支払われません。
それに対して、準委任とは、「完成の義務はない」点が本質の契約です。成果物の納品がある成果完成型であっても、完成責任はなく、「できたところまでの成果」にも価値が認められます。
契約形態 | 主な対象 | 報酬の基準 | 成果責任 |
---|---|---|---|
委任契約 | 法律行為 | 遂行の有無 | なし |
準委任契約(履行割合型) | 法律行為以外(作業など) | 工数・作業時間 | なし |
準委任契約(成果完成型) | 法律行為以外 | 成果物の納品 | 完成義務なし |
請負契約 | 成果物の完成 | 成果の完成 | 完成義務あり・瑕疵担保責任あり |
準委任とは? ③準委任契約が使われる主なケース
準委任は、継続的な業務サポートや、成果の定義が難しい業務でよく使われます。
たとえば、IT業界では「システム保守」「ヘルプデスク」「社内SEの外部委託」といったケースが非常に多く見られます。
また、顧問コンサルティングや業務支援、士業(弁護士、税理士など)の定期的なアドバイザー業務でもよく使われます。これらの業務は、明確な成果物がなくとも、「対応してもらった」という行為そのものに価値があるからです。
一方、成果が必要な業務であっても、「完成が絶対ではない」「途中までの成果でも評価される」といったケースでは成果完成型の準委任契約が選ばれることもあります。
逆に、完成したものを納品してもらいたい。または完成しないと困る業務(例:ホームページ制作、アプリ開発など)は、請負契約が向いています。
2. なぜ準委任契約が選ばれるのか?メリットと注意点
準委任は、他の契約形態と比べて柔軟性が高く、業務の実情に合わせて使いやすいという特徴があります。
そのため、IT業界やコンサルティング業界など、変化の激しい分野を中心に広く利用されています。
とはいえ、メリットばかりを見て契約してしまうと、思わぬ落とし穴にはまることもあります。特に、「成果完成型の準委任」という少しややこしい類型もあります。そのため、契約の中身をしっかり理解しておく必要があります。
この章では、準委任が選ばれる理由。さらに、メリットだけでなく、見落としがちな注意点やリスクについても解説します。
①準委任とは?契約のメリット(柔軟性・専門性)
準委任が重宝される最大の理由。
それは、“柔軟性”にあります。業務の進行状況や成果に応じて契約内容を見直せたり、成果物が不要な業務でもスムーズに契約を結べたりと、請負契約にはない自由さが魅力です。
特に履行割合型では、業務遂行そのものに対して報酬が発生するため、対応力重視の業務に最適です。ITの保守対応や、調査・資料作成、経理補助業務など、「やったかどうか」に価値がある業務で多く使われます。
また、準委任契約は専門家の知見やスキルを外部から取り入れる際にも有効です。コンサルや顧問契約など、“成果物よりもアドバイスそのものが価値”という仕事に非常にマッチしています。
成果完成型であれば、「成果物が一定ラインに達すれば報酬が支払われる」という安心感があるため、受託者にもモチベーションが生まれやすい構造です。
②準委任契約のデメリット(責任・指揮命令)
一方で、準委任には誤解されやすい注意点がいくつもあります。
まず大きな特徴として、発注者は原則として受託者に対して「指揮命令」ができません。つまり、細かく「こうして、ああして」とは言えないのです。
これを知らずに発注者側が「もっとこうしてよ」と強く言いすぎると、実態が派遣契約に近づき、最悪の場合「偽装請負」と判断されるリスクがあります。
また、成果物がある「成果完成型」の準委任契約であっても、“完成義務”はないため、品質に関しての法的責任は限定的です。たとえば、成果物に不備があっても、請負契約のような「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」は原則発生しません。
このため、発注者としては「完成は求めたいが、責任も取ってほしい」というニーズがある場合には、請負契約の方が適しています。
③誤解しやすい「偽装請負」のリスクとは
そして、準委任で最も気をつけなければならないのが「偽装請負」の問題です。
これは、本来は派遣契約であるべき関係を、準委任や請負などの形式で偽装している状態を指します。
たとえば、受託者がクライアント先に常駐しており、クライアント社員が日々業務の指示を出しているような場合、形式上は準委任でも、実態は「派遣」に非常に近いです。この状態が続くと、労働基準監督署から是正指導を受けたり、行政処分の対象になることがあります。
しかも、成果完成型の準委任契約で「報酬は成果に対して支払う」としておきながら、日々指示を出して業務管理をしていると、実質的に請負や派遣と同じ状態になります。
こうしたリスクを避けるには、契約書の書き方だけでなく、実際の運用方法まで見直す必要があります。「契約書には準委任と書いてあるから安心」と思い込まず、実態と契約がちゃんと一致しているかを定期的にチェックしましょう。
3. 準委任契約が向いている業務とそうでない業務
準委任とは、どんな業務に向いている契約なのか?
それを考える際には、「履行割合型」と「成果完成型」のどちらを選ぶかがポイントになります。
それぞれの性質を踏まえて、具体的に向いている業務とそうでない業務を整理してみましょう。
①履行割合型に向いている業務
準委任の履行割合型は、「成果物がなくても、業務を遂行したこと自体に価値がある業務」に最適です。
たとえば、以下のような業務が該当します。
- ITシステムの保守・監視対応
- 社内ヘルプデスク業務
- 定例の業務支援や会議出席
- 顧問税理士による月次相談業務
これらの業務では、何かを“完成”させるというより、一定時間・一定期間対応することに意味があります。工数や時間で報酬を支払う履行割合型なら、業務の変動にも柔軟に対応できます。
ぶっちゃけ、「成果が見えにくいけど、必要不可欠な業務」には、履行割合型が一番使いやすいのです。
②成果完成型に向いている業務
一方、準委任には、成果完成型もあります。こちらは「完成義務はないが、成果物の納品が報酬の条件」というスタイルです。
成果物に対する責任は請負契約ほど重くありませんが、一定の“完成形”が必要とされる業務にフィットします。
たとえば、以下のような業務です。
- 調査報告書や改善提案書の作成
- マニュアルや資料の整備支援
- 教育コンテンツのドラフト作成
- 記事執筆・原稿作成(最終完成ではなく草稿レベル)
これらの業務では、「ある程度まとまった形の成果物を納品してもらいたいけれど、細かい修正や完成責任までは求めない」というケースが多いため、成果完成型の準委任契約が適しています。
納品物があるとはいえ、「100%の完成を義務づけたくない」場面では、請負よりも成果完成型の準委任契約の方がリスク管理もしやすいのです。
③準委任契約が向いていない業務
逆に、次のような業務では準委任契約は避けた方がいいでしょう。
- Webサイトやシステムなど、完成が必須の開発業務
- 印刷物の制作や納品など、完成責任が問われる業務
- 明確な納品基準や検収が必要な業務
こうした業務は、成果物の完成が不可欠です。準委任契約では「完成義務」が発生しないため、万一完成しなかった場合にトラブルになります。この場合は迷わず請負契約を選ぶべきです。
4. 準委任契約を結ぶ前に知っておきたい実務のポイント
準委任とは、柔軟に使える一方、契約書の内容や実態運用を間違えると大きなトラブルにつながるリスクがあります。
特に「履行割合型」と「成果完成型」では、報酬や契約の目的が異なるため、それぞれに応じた実務対応が必要です。
この章では、契約書の作り方、報酬・期間の設定、トラブル回避のポイントまで、実務で使える知識を具体的に解説します。
①契約書作成時に明記すべき項目
準委任契約のリスクの多くは、「契約書に書かれていなかった」「内容が曖昧だった」ことに起因します。
特に履行割合型と成果完成型では、契約書に記載すべきポイントが微妙に異なります。
履行割合型では、業務内容や実施期間、作業の範囲を具体的に書くことが最重要です。「何をやって」「何をやらないか」をしっかり記載することで、対応の過不足によるトラブルを防げます。
成果完成型では、納品物の定義や報酬の発生条件(いつ成果とみなすか)を明確にしましょう。「納品すれば報酬が発生する」としても、「どこまでできれば納品とするか」があいまいだと、検収時に揉めます。
どちらの契約形態でも、下記の項目は必須です。
- 業務内容の明確化
- 業務の対象範囲・除外事項
- 報酬金額・算出方法
- 契約期間・更新の有無
- 契約解除の条件
- 秘密保持、再委託の制限 など
特に「口頭で合意していたから大丈夫」という感覚は非常に危険です。文書で残すことこそが、双方の信頼を守ることにつながります。
②報酬・期間の設定方法の基本
準委任契約では、報酬の支払い方法が非常に重要なポイントになります。
履行割合型では、実働時間や業務の進捗度合いに応じた「時間単価制」が主流です。月ごとに業務報告書や稼働表を提出し、それに基づいて報酬を精算する形が一般的です。
成果完成型では、「納品物の提出をもって報酬が発生する」という契約になります。ただし、請負契約のような“完成責任”があるわけではないため、納品の定義を厳密にしておかないと、報酬を巡る争いが起きやすくなります。
また、契約期間についても注意が必要です。準委任契約は、民法上いつでも解除できるとされていますが、実務では「1ヶ月前の通知による中途解約」など、期間に関する条件を付けるのが一般的です。特に長期契約の場合は、途中解除による影響も考慮しておく必要があります。
③トラブルを防ぐためのチェックリスト
以下のようなトラブルは、準委任契約でよくある典型例です。
- 成果物の認識違い(成果完成型)
- 工数の膨張による報酬トラブル(履行割合型)
- 実態が派遣に近くなる(偽装請負)
- 契約解除のタイミングでもめる
こうした事態を避けるには、契約書の記載内容だけでなく、運用面でも細かなチェックが必要です。
準委任契約の事前チェックポイント
- 契約類型(履行割合型か成果完成型か)が明確か
- 業務の範囲と報酬発生条件が一致しているか
- 契約解除や報酬支払のタイミングが明文化されているか
- 実際の運用が契約書の内容と一致しているか(特に指揮命令関係)
要は「契約書に書いてある通りに運用されているか」がすべてです。そこがズレていれば、書類が整っていても意味がありません。
④法的トラブルを避けるための実務アドバイス
準委任に限らず、契約トラブルの多くは「実態と契約が食い違っていた」ことから起こります。
契約類型 | 実務上の注意点 | 補足・目的 |
---|---|---|
履行割合型 | 日々の稼働報告(実施内容・時間・対応範囲)を記録すること | トラブル時の証拠確保・業務の見える化 |
成果完成型 | 成果物の完成条件・納品基準、検収フロー、修正対応の有無を定義する | 報酬条件の明確化・後工程トラブルの予防 |
そして、どうしても不安なときは専門家に相談すること。契約法務に詳しい弁護士や社労士に契約書をチェックしてもらうことで、思わぬ落とし穴を事前に回避できます。
5. 準委任契約を活用するための応用知識
準委任は、実務のなかで「便利で柔軟な契約形態」として重宝されています。
しかし、履行割合型・成果完成型という2つの類型を正しく理解してこそ、その力を最大限に活かすことができます。
この章では、業界別の具体例、請負契約への切り替え判断、他契約形態との併用方法など、より実践的な応用知識をご紹介します。
①業界別:準委任契約の具体的な活用例(IT・コンサル等)
準委任契約は特に、IT・士業・コンサルティング業界で広く使われています。
それぞれの業務に応じて、履行割合型と成果完成型の両方が活用されています。
【IT業界】
- 履行割合型:システムの運用保守、インフラ監視、社内ヘルプデスクなどは、時間に応じて業務を提供する形が基本です。定型業務で成果を求めにくい作業が多いため、履行割合型が圧倒的に多くなります。
- 成果完成型:ログ分析レポートの作成や運用改善提案書の提出など、レポートの納品が求められる業務では、成果完成型も利用されます。
【士業・コンサル業界】
- 履行割合型:顧問契約、定期相談、電話対応など、継続的な業務支援では履行割合型が主流です。
- 成果完成型:調査報告書、改善案、契約書レビューの納品などは、報酬の根拠が成果物となるため、成果完成型として契約するケースが増えています。
【その他業界】
- マーケティング支援や研修資料作成などでも、「支援の継続」は履行割合型、「納品物」は成果完成型として、業務内容に応じて使い分けるのが一般的です。
②準委任契約から請負契約への切り替え判断基準
実務が進むなかで、「最初は支援だったが、途中から成果物を納めてほしくなった」というケースはよくあります。
そうしたとき、準委任契約から請負契約に切り替える必要があるのかどうか、判断に迷うこともあるでしょう。
切り替えの判断ポイント
- 完成義務が発生するか
→ 成果物を「完成させること」が前提なら、請負契約が必要です。 - 検収・納品が必須か
→ 検収後の瑕疵担保責任(現在の契約不適合責任)を求める場合も、請負契約が適します。 - 報酬が完成と完全に連動しているか
→ 完成してはじめて報酬が支払われる形であれば、それはもはや成果完成型の準委任ではなく請負に該当します。
一方で、「納品はするけれど、完成義務は求めない」「納品前でもプロセスに対して一部報酬を払いたい」といった場合は、成果完成型の準委任契約で十分対応可能です。
途中で業務内容が変わることは珍しくありません。だからこそ、契約も“使い分け”と“見直し”が大切です。
③派遣契約や業務委託契約とのハイブリッド活用方法
準委任契約単体ではカバーしきれない場合、他の契約形態との併用が有効です。ただし、このハイブリッド型には注意が必要です。
たとえば、IT業界ではよく「請負+準委任」や「準委任+派遣」の形で運用されることがあります。
契約形態の組み合わせ | 主な活用場面 | 準委任の役割 | もう一方の契約の役割 | 使い分けのポイント |
---|---|---|---|---|
請負 + 準委任 | ITシステム運用、改善提案業務 | 運用フェーズ・日常的な支援業務 | 成果物の納品(改善提案・マニュアル等) | 運用は準委任、納品物に責任を求める業務は請負または成果完成型準委任で対応 |
準委任 + 派遣 | 社内常駐業務やBPO業務で指揮命令が必要な場合 | 業務遂行は受託者の裁量で対応 | クライアントの指揮命令が発生する業務は派遣契約で対応 | 業務内容によって指揮命令の有無で契約形態を分けることが重要 |
ただし、指揮命令権が発注者にある時点で準委任ではなくなるという原則を忘れてはいけません。形式だけ準委任にして、実態が派遣や請負に近いと、偽装請負・労基法違反と見なされるリスクがあります。
ハイブリッド型で運用する際は、次の3点を必ず守りましょう。
- 各契約形態の役割と責任を明確に分けること
- 契約書でそれぞれの契約内容を分けて記載すること
- 実務の運用も契約に即して行うこと(記録を残す)
正しく使えば非常に柔軟な手段になりますが、リスクのある領域だからこそ、慎重に取り扱う必要があります。
準委任とは?まとめ
準委任とは、その柔軟性と専門性への対応力から、現代のビジネスシーンに欠かせない契約形態のひとつです。
一方で、請負契約や派遣契約との違いを理解せずに使ってしまうと、思わぬトラブルに発展することもあります。
本記事を通じて、準委任契約の正しい知識と運用ポイントをご理解いただけたでしょうか?
もし少しでも「これは役立った」と思っていただけたら、実際の契約や社内教育の場でもぜひ活用してみてください。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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